とりあえず抜き書き

宮崎駿『風の帰る場所』(ロッキングオン、2002年←渋谷陽一によるインタビュー集)が、最近の「トイレ本」。
これ読むと宮崎駿っていう人が、かなり「激しい」人なんだなあと知る。作品をよーく見ればそのことは伺えるが、トトロとか魔女の宅急便とかポニョとか、なんとなくイメージだけで受け取っている場合には驚くだろう。
その中にこんな一節が。

//「例えば、自分たちのアニメーションが受け入れられるときに、生身の人間が今日本で自分たちが作ってるようなものをやると、人が信用しないんじゃないかと思うんですね。だからアニメーションで薄まった部分とかアニメーションで観やすくなった部分によって成り立ってるんで、そういう弱点も確実に僕らの作品の中にあるなって思ってます。なんかこう、それは生身の人間が愛だの正義だのって言ったら我慢できないけども、絵で描いたものがやってるぶんには――まあ、そのぶんだけ稀薄だから許せるとか〔中略〕まあとりあえず観てみようとかいう気になるっていう、そういう隙間でアニメーションっていうのは商売をやってるところがあって・・・・・・」(p54)//

こういうセリフが宮崎駿から出てくるっていうのがちょっと意外だった。

ついでに、今別に並行して読んでいる本はジェームズ・レイチェルズ『現実をみつめる道徳哲学』(晃洋書房、2003年)で、これはなかなかよくて、1年生のゼミで使えそうな感じで、ふむふむと読んでいるのだが、その中のさっき読んだ一節を。

//人が理論を作ろうとするとき、そうする最も強力な動機の一つは単純性への欲求である。何かを説明しようとする際に、我々はできる限り単純な説明を探そうとする。/これは科学においては確かに正しいことである。科学理論は単純なほど、訴える力が大きいからである。天体の運動、潮汐、高空で放たれた物体が地表に落下する軌道など、いろいろな現象を考えてみよう。これらは、最初は非常に異なっているように見える。これらすべてを説明するためには、実に様々な原理が必要だと思われるだろう。いったい誰が、これらすべては一つの単純な原理で説明できると思うであろうか?/だが、重力の法則がまさにそれなのだ。(p.76)//
この最後の一文にいたって、何かちょっと感動してしまった。理科の授業で、誰でも知っていることなんだけど。
ちなみに、この一節は、このあと、人間の行動をすべて「利己主義」の観点から説明することは、それが単純な法則であるだけに非常に魅力的だが、間違っている、というふうに続く(道徳哲学の本だからね)。なぜ間違っているかというその理路は、一歩一歩丁寧に、詳細に論じられるので、納得するしかない。その筋道の立て方が、この本の見事なところ。