『歯と爪』

沖縄で買ってきたおみやげの「手づくりちんすこう」をぽりぽり食べている。おいしい。
うちの妻はなぜかおいしいものを見つけてくる野生の勘みたいなものがすごい。店でも物でも。
ちんすこうも大体僕はみやげにもらってもそんなにおいしいと思って食べたことはないのだが、これはうまい。
「手づくり」といっても単にパッケージにそう書いてあるだけで、見たところ何も変わりはないのだが。
これはどこだろう、確か恩納の道の駅みたいなところで買ったやつだったっけか。

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今翻訳している(というか翻訳しかけてとまっている)本には文学やら実在の事物やらへの言及がたくさん出てくるのだが、そのなかのひとつとして、ビル・S・バリンジャーの『歯と爪』という推理小説があるので、しばらく前にこれを読んでみた。
結末部が袋とじになっていて、ここで開けずに返品すればお金はお返ししますという趣向で有名なやつだ。
「結末の驚くべき真相!」と帯にも書いているのだが、残念ながら今この時代にこれを読んだ僕としては、この結末は大して意外なものではない。
むしろ初めの方からすでに、ああ大体こういう話なんだろうな、と思っていたのがほんとにそのまま結論だったので、おいおいなんか素直すぎるんじゃないの、と思ったほどだ。それをひっくり返して欲しかったのだが。
この作品の刊行は1955年。
推理小説というのは、「あっと驚く仕掛け」というのがつぎつぎに出てくるので、読みなれた読者は勘が出てくるので、それをさらにひっくり返すのはむずかしいね。

それでちょっと思い出したけど、昔、鈴木光司の『リング』を読んで、その後『らせん』だったかな、続編を読んだ時、『らせん』の結末がとにかく「ひっくり返そう」という意識が強いのか、どんでん返しどんでん返しで、もう複雑になりすぎて、ストーリーがかえってめちゃくちゃになっているような印象をもったものだ。『リング』ぐらいで十分おもしろかった。誰も読んだことがないようなものを書こうという気負いが強すぎてもエンタテイメントはうまくいかないのではないか。

で、話は推理小説の意外な結末に戻るが、僕がこれまで読んだ中であっと思ったのは、やはりクリスティーの『アクロイド』だが、もう一つ、筒井康隆の『ロートレック荘事件』。
これ、ちょっと古めかしいけどかなり傑作だと思う。
ただし映画化は絶対不可能だが。
これと歌野晶午の『葉桜の季節に・・・何ちゃら』というやつは映画化不可能作品。
叙述トリックっていうのはまあ大体映像化不可能だが、もう一つ叙述トリックで記憶に残っているのは、大学時代に読んだ綾辻行人の『十角館の殺人』だったっけか、もううろ覚えだが(って「記憶に残って」いないじゃんか)確かそれで、これもたぶん映像化できないパターンだろうな。しかし詳細の記憶はもう不明。
しかしこれはたぶん今読むときっと幼稚な感じがするに違いない。

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今日の朝日新聞東京版に都知事選候補者の政見アンケートが載っている。一番まともなことを言っているのはやっぱり小池晃氏。
ほかの候補者は「スーパーティーチャー」だの「高度防災都市」だの格好だけはつけた中身のはっきりしないキャッチコピーみたいな言葉ばっかり使いたがって、話にならない。キャッチーで無内容な言葉はいらない。少なくとも小池氏はそういう言葉は使わない。大体、石原は「武道必修化」だのと寝ぼけたことを言っているし、ワタミは「経営」のセンスを訴えている(これは新聞のアンケートではないがポスター等で)。政治や教育(特に教育)にビジネスマインドだけは持ち込んで欲しくない。
もともと、まっとうに考えれば、小池晃氏に入れるしかないことははっきりしているのだが、それでは「死に票」になって石原を阻止できない。勝てる可能性があるとしたら、東国原に乗っかる手しかないが、この男にいれるのもどうかと思う。
おそらく多くの(良識ある)都民がみな同じように考えて困っているのではないだろうか。
投票日は明後日。